高齢者の住宅というと思い浮かぶのがバリアフリーという言葉。 ユニバーサルデザインという考え方も広まりつつあります。言葉が先行しているような印象があります。 実態はどうでしょうか。家の内部で段差をなくしても、外出すると街の中のバリアに気づきませんか
人間は真空状態では、暮らしていくことできません。道路にも、ビルにも段差があります。例えば、 祖母のために、手すりを取り付けたとしても、そのことを理由に家族の関心がなくなれば新しい問題が 起きてきます。今年の1月に見学した千葉県鴨川市の亀田クリニックには、 手すりはありませんでした。いつでも、どこでも病院の職員が見守っているからです。
80代の奥様が暮らしている家で、階段昇降機を取り付けたことがあります。 奥様は両方の膝がよくないので、1階と2階を行き来できない状態でした。3年間も不便を感じながら、 階段昇降機を取り付けられなかったのは、明らかに住宅業者側の目的と手段をねじまげる姿勢に原因がありました。
「私は、日当たりの良い2階の和室で、くつろいで過ごすことを目的としているのに、1階に浴室をつくったり、 庭先への増築を勧める会社ばかりでした」と説明してくれました。高齢者リフォームでは、施主さんをだます悪徳業者への注意が欠かせません。
新築・リフォームついての住宅相談では、お客様の価値観を知るために「どのような家が生まれてから死ぬまで過ごせる家ですか」 と聞くことがあります。赤ちゃんは一人では、何もできません。大人の手助けがいります。人が歳を取るにつれて、また介助が必要となります。 赤ちゃんが少年・少女期、青年期、壮年期を経て、高齢者になるまで、安心して健康で暮らすことができること。 それが介護建築という発想です。
ある奥様に、入居後、しばらくして挨拶に伺う機会がありました。「実際に暮らしている私たちにとって、『介護建築は家族の絆とやすらぎをつつみ感じる住まい』 と思えます」と穏やかに話していました。